仮面

私はいつも
自分を生きていない

会社では
リーダーとしての役割をもとめられ

家庭では
よき父親としての姿をもとめられ

見知らぬ場所を歩み
困難には笑顔で答え
失敗には皆を鼓舞し

おおらかな
ゆったりと生きる人間を
演じてきた

今までずっと、そう演じたいと思ってきた

今でもまだ、そう演じたいと願っている

だけど

演じるたびに

心は血を吐き
かさぶたが出来る前に
再び血を吐き

何もかも捨ててしまうこともできず

手を伸ばす先には

薬と

セックスフレンドしかいない

　奥さんに相談して二人でがんばりなさい

医者はそう言う。

　子供に格好をつけなくても
　子供はあなたを愛してくれるよ

友人はそう言う。

でも、彼らは、その同じ口で

　自分自身を強くしないといけないと言う

同じ目で

　プライドを持てと言う

私は、ただ

弱い自分を横たえて
許してくれる場所が欲しいのに

　立ち上がれと

彼らは言う



あの人は

病気のことを
初めて打ち明けた人

できることなら
ずっと一緒にいてあげたいと
言ってくれた

初めての人

でも

恋はできないと言われた

苦しみや
さみしさを癒す術（すべ）を
薬や肌や恋に求めなくて済むのなら
それが一番いい

分かっている

分かっているのに

時計の秒針が
私を追い詰める

知らない街角が
私を閉じ込める

スーパーのレジの列が
私を硬直させる

すれ違う他人が
私に刃物を向けて脅してくる

どこに手を伸ばせばいいの？

そんな時、あの人は

友達という対岸で
私を見つめている

『がんばれっ』

両手を口に当てて
大きな声で叫んでくれる

だけど

手は届かない

指先すら

触れ合えない

わたしは

がけのふちで
つま先だって
両手を伸ばしているのに

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